阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 09.26

家庭でも職場でも,あるいはビジネス交渉(営業)の場でもあっても,『人に動いてもらいたい』という場面は誰しも数多くありますよね。

(※ちなみに,ここでいう「人が動く」というのは,人が自ら一定の行動を取ることを決意して,かつ,実際に行動することを指します。)

でも,人は,(その行動の必要性を理解していたとしても)何かしらの不安や恐れを感じると,決意して行動することに躊躇します。

無理もありません。

誰だって,行動したことによって自分にとってマイナスな結果が発生するのは嫌ですからね。

とはいえ,不安や恐れがあるから何もしないという状態を続けていくと,物事は何も前進しません。

むしろ,『何もしない』ということを周りからマイナスに捉えられることにより,前進どころか停滞(現状維持)を通り越して後退してしまうリスクすらあります。


では,このような『何もしない』状態にある人に対して行動を促すために,どんな関わり方が効果的なのでしょうか。

相手のタイプや,置かれている状況によっていろいろと方法は考えられますが,今日ご紹介したいのは,「相手の選択肢を明確にする」というアプローチです。

度々このブログでもお話ししておりますが,人に行動してもらいたいと考える場合に必ず踏まえるべき絶対的原則が2つあります。

1つ目は,『他者を直接コントロールすることはできない(変えられない)』という原則です。

2つ目は,『人は自ら望まない限り変わることはない』という原則です。

この2つの原則から,人を動かすにあたっての重要な原則が導かれます。

それは,『人を動かしたければ,本人にその必要性に気付いてもらい,かつ,行動しようという動機が生まれるような関わり(情報提供)をするしかない』という原則です。

この原則を具体的な行動手法に落とし込んだものが,今回ご紹介する「選択肢(及びそれにより発生し得る結果)を明確にする」という方法です。

より細かく言えば,効果的な質問をすることで,今自分が取り得る選択肢と,そこから生じ得る結果を本人自身に明確に認識してもらうというアプローチ方法になります。


例えば,既存のお客様に別なお客様のご紹介をお願いすることが苦手だという営業マンの部下がいたとします。

既存のお客様に迷惑に思われてしまうのではないかと不安になっているわけですね。

このような部下に対して,あなたが上司だとしたら,どのような関わり方をするでしょうか?

もちろん状況にもよる話ではありますが,私なら,こんな質問をします。

「既存のお客様に対してご紹介をお願いするという道を選んだ場合と,お願いしないという道を選んだ場合とで,それぞれ君にはどんな結果が起こり得ると思う?」

このように質問された場合,答える側としては,当然,それぞれの選択肢から予想される未来をイメージしますよね。

前者であれば,上手くいけばさらなる新規顧客の開拓につながり営業成績がアップするかもしれないが,もしかしたら『紹介なんて面倒だ』等とお客様に迷惑に思われて,嫌われてしまうという結果が生じるかもしれません。

他方,後者の場合は,お客様に迷惑がられるリスクは避けられますが,ご紹介を頂くというルートによって営業成績が向上することは起こりえません。

上記の例のような部下の場合,『自分が今躊躇している行動をとらない状態が続くことによって具体的にどんな未来が待っているのか』ということを真剣に考えることができていないというケースが少なくありませんので,まず,このように,『行動しないことによる具体的リスク』について,自分で考えて,自分の言葉で語ってもらうことが大事です。


ちなみに,多くの企業においては,このような『行動しないことによる具体的リスク』について,本人に考えて言葉にしてもらうのではなく,上司が自ら部下に言って聞かせようとするという場合が少なくないと思います。

『このままご紹介をもらうようなアプローチができなければ,いつまでたっても成績は上がっていかないぞ。それじゃダメだろ!』

みたいな感じですね。

ですが,上司が言って聞かせるだけだと,よほどその部下が上司を心から尊敬しており,上司からのアドバイスであればぜひ耳を傾けたいというような非常に深い信頼関係でもないかぎり,効果は薄いです。

理由は単純明快です。

本人自身が自分で考えて,自発的に気づいていないからです。

見知らぬ土地を移動しているときに,自分で地図を見たり周りの景色などを参考にしながら,目的地への道を考えて移動している場合と,誰かに案内されてついていった場合とで,どちらの方がよく道を覚えられるかということと一緒です。

道案内の場合は,実際にガイド役の人が目的地まで案内してくれるので問題はありませんが,仕事の場合はそうはいきませんよね。

全て上司が道を示してお膳立てをして,部下はその後についてくるだけでは,部下自身ではいつまでたっても新規顧客を自ら開拓する力はつかず,『部下の営業成績を高める』という目的は何ら達成できません。

結果,上司もマネージャーとしての結果を出すことができず,上司も部下もLose-Loseという状況になってしまいます。

ゆえに,本人に自ら考えてもらい,自分の言葉で語ってもらうということが大事になるわけですね。


さて,話を戻しましょう。

『行動しないことによって自分自身にどんな未来が待っているか』ということに自ら直面してもらったら,今度は,その逆に,行動した時の未来について部下自身に語ってもらいます。

「お客様からの紹介を定期的にもらうことができたらどんな未来になるだろうか」という点について語ってもらうわけですね。

このような理想的な未来を思い描くことは,行動に対するモチベーション(動機)を高める上で非常に重要です。

(7つの習慣では,第2の習慣(終わりを思い描くことから始める)として紹介されている部分です。)


もっとも,おそらく,多くの部下はその後に,

「でも,実際上手く紹介に結び付けばいいですけど,お客様によっては迷惑に感じる人もいますよね。それで嫌われたらそれこそ紹介を頂くなんて難しいんじゃないでしょうか・・・」

などというように,自分が行動できない原因となっている不安や恐れの内容を吐露してくる可能性が高いですよね。

そういう不安や恐れがあるから行動できていないわけですし。

そんな場合には,「じゃあ,お客様に迷惑がられたり,嫌われたりしないでご紹介のお願いをするという選択肢はないのだろうか?」と問いかけてみてください。

だいたい,恐れや不安を抱えている人は,自分がリスクと感じているものを回避するための努力という方向性について目が向いていないことがほとんどです。

そのため,改めて上記のように,『自分が漠然と抱いているリスクを回避しうる選択肢がある(かもしれない)』という視点を与えるだけで,問題解決に向けて頭と体が動き始めます。

もし自主的な気づきがなかなか進まないようであれば,そこで初めて,上司としての経験や,参考になる技術などについての情報提供を与えるのが効果的です。

『リスクを回避するための有益な情報』ということで,本人が積極的に求めている情報だからです。


人は常に様々な選択をしながら生きています。

ただ,自分には思ったよりもいろいろな選択肢があることや,特定の選択肢を選んだ場合に起こり得る未来の具体的イメージはなかなかできていない人が多いです。

そこで,上司が部下の効果的な「選択」の後押しや支援をしてあげることで,部下のパフォーマンスは向上し,成果につながることが期待できるわけです。


これは元々人間の行動に関する原則に基づいた考え方なので,親子や師弟関係などでも同じように当てはまります。


「相手の選択肢(及びそれにより発生し得る結果)を明確にすることで,人を動かす」


ぜひ試してみてくださいね!