阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2016 10.24

人を動かしたいときにやってはいけないこと

今日は,私自身が最近体験したある出来事を事例として,「人を動かしたいときにやってはいけないこと」について考えてみたいと思います。

先日,ある出版社の営業マンが,私の事務所に,事件管理等の事務作業を効率化するソフトウェアのセールスに来ました。

私は元々そのソフトウェアがどんなものかはおおよそ知っていましたし,コストも知っていたので,現時点で導入する意向はありませんでした。

ただ,その営業マンがどんなセールスをしてくるのかについて興味があって,アポをOKしていました。

(※セールスを受ける側に立つと,どんなセールスをやってはいけないのかということがよくわかるので,時間にある程度余裕があるときはおススメです。)

時間どおりに営業マンが来所し,いざ,セールストークスタートです!

私は,その営業マンがどんな進め方で売り込んでくれるのか,色々と期待をしていました。

そんな私が,トークが始まって5分ほどたった時どうなっていたと思いますか?

5分後の私は,相談室で,テーブルを挟んで目の前でトークをされているのに,ものすごい眠気に襲われてしまいました。

確かに,その日は朝かなり早起きしてはいたのですが,それでも,寝不足というほどではありませんでした。

でも眠い!!めっちゃ眠い!!!

どうしてこんなに私は眠くなってしまったのでしょうか?

打合せは午後の日が高い時間帯で,お昼ご飯を食べた後で自然と眠くなってしまったから?

それも多少はあったと思います。

でも,根本的な理由は別にありました。

その営業マンは,とにかくほとんど一方的にソフトウェア(=商品)の説明をせっせとしているのです。

ある程度商品の知識を持っている私に,延々と30分以上かけて商品のセールスポイントについてトークを繰り広げていました。

その間,私に対して質問し,私がしゃべっていた時間は,ごくわずかでした。

これでは眠くなっても無理はないと思いませんか?


特定の商品を相手に買ってほしいのであれば,相手にその商品が必要だと感じてもらわなければなりません。

言い換えれば,その商品を購入することで得られる便益(ベネフィット)が,対価として支払う代金の価値を上回っていると感じさせる必要があるということです。

そうであるならば,まず,その商品があることで解決できる様々な問題を相手(見込み客)が抱えているかどうかをリサーチして,まさにその問題を解決することができるのがこの商品ですよ,というプッシュを行う必要があります。

そして,このようなリサーチを進めるためには,見込み客から多くの情報を引き出す必要があります。

つまり,平たく言えば,その商品によって解決できるような問題に関わる悩みの有無などをたくさんしゃべってもらう必要があるということです。

そうやって話をしていくうちに,その悩みの解決方法があれば知りたいという気持ちになってもらい,ひいてはその商品がまさに今抱えている悩みを解決してくれるアイテムですよ,という形で必要性をアピールしていくのが,本来あるべきセールストークの展開でしょう。

それに,これはセールスの場面に限った話ではありませんが,概して人は,他人の話を一方的に聞くよりも,自分の話をする方が好きですし,気分も良くなります。

ですから,自分の話に真剣に耳を傾けて,興味関心を持って聞いてくれる相手に対しては,自然に好感を持つようになります。

これとは逆に,相手が求めているかどうかに関わらず,自分が話したい話を一方的に話す人は,あまり好感をもたれません。

これは普遍的な原則であり,皆さんも経験則上ご存知のことと思います。

そういう観点からも,自分の商品を相手に買ってもらいたいのであれば,なおのこと,なるべく相手にたくさん話してもらう必要があるわけです。

残念ながら,先日私のところに来た営業マンは,あまりそのことをわかっていなかったようでした。

もちろん,結果として私の心は一切揺らぐことはなく,合計45分間くらいセールストークを聞いた後,丁重にお断りをしました。


事例は対面的なセールスの場面でしたが,上記の原則は,およそ人を動かしたいあらゆる場面において同様に当てはまります。

例えば,部下に成果を出してもらいたいときに,部下が何を求めて仕事をしているのか,成果を出すために行動していくにあたってどんな悩みを抱えているのかについて部下からしっかり話を聞かずに,一方的に自らの経験や武勇伝等を語って,「こうやればいいんだ!」等と言ってくる上司は世の中にごまんといますよね。

あなたが部下の立場だったら,このような上司からのアドバイスを受けてやる気が出ますか?成果を出す気になりますか?具体的にどんな行動をすべきか見えてきますか?


人を動かしたいのであれば,その人が何を求めているのか,何に困っているのか,何がその人の動機づけになるのかについて,自ら話してもらうことが極めて重要です。

それをせずに,自分の尺度や価値観で事の是非や正当性を(一方的に)判断して,他者にこうしてほしい(こうするべきだ),あーしてほしい(あーするべきだ)と言っても,他者は動いてくれません。

『人を動かしたければ,ひたすら相手の話に耳を傾けよ』

セールス,マネジメント,チームビルディング,家庭生活,ありとあらゆる場面において,この原則はあてはまります。

ぜひ意識してみてくださいね!