阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2016 08.02

二者択一思考の罠

皆さんは,誰かと意見が対立し,どちらの意見が正しいかで口論になったことはありませんか?

おそらく,そのような経験がないという方はほとんどいらっしゃらないと思います。

人は,どうしても自分の視点(自分の尺度)で物事の是非善悪を判断してしまう癖があるため,自分の意見が正しいと思ったときには,なかなかその他の考え方をしてみようという発想に至ることができません。

しかし,誰かと意見が対立しているという状況は,大抵,相手との間で何らかの合意を形成しなければならない場合がほとんどです。そうすると,双方が自分の意見に固執してしまうと,どちらかが譲らない限り対立関係は解消されず,結局,win-loseかlose-winとなり,どちらか一方が膝を折るという形となってしまいます。

これがエスカレートすると,取引関係にあった企業間や夫婦,きょうだい,親子など,元々は良好な関係を有していた人たちが,激しい対立状態に陥り,これまでの良好な関係がもろくも崩れ去ることになります。

このような例は,枚挙にいとまがありません。

本来,元々良好な関係にあった企業や個人同士が,激しい対立関係になってしまうなどということは,全く望ましいことではないはずです。

その分,関係者の日常業務の生産性は低下しますし,対立解消のために本来不必要な時間を費やすことにもなるからです。
なにより,単純に気分が悪く,楽しくありませんしね。

なのに,人はうまく対立関係を解消することができません。

なぜでしょうか。

自分の意見が正しいと信じているから?

それもあるかもしれません。

相手に負けたくないという意地?

それもあるかもしれません。


しかし,いずれも,対立解消が難航する一番大きな原因とまではないえないでしょう。

一番大きな原因は,「二者択一思考の罠」にあります。

これは,二当事者間で意見が対立した際に,対立解消というゴールに至る道は,こちら側の考え(=第1案)を採用するか,相手方の考え(=第2案)を採用するかの二択しかないという考えに陥ってしまうことをいいます。

「自分が正義か,相手が正義か」というような思考パターンに陥ってしまうことから,お互い譲ることができず,結果として対立関係が進行していくわけです。

しかし,本当に,二当事者間で意見が対立しているときに,対立を解消するための選択肢は,第1案か第2案しか存在しないのでしょうか?

そんなことはありません。

第1案でも第2案でもなく,お互いが尊重し合って自分の得るべき利益を享受することのできる「第3の案」を探せばいいのです。


例えば,中学生の子供が部活動に熱心に取り組んでいるところ,学業の成績が下がってしまったという場面で考えてみましょう。

父親は,子供が部活動をやりたいのであれば,多少成績が悪くても,気にせず部活動を続けさせてあげたいという考えを持っていたとします。

これに対して,母親は,将来のことを考えたら,成績が悪い状態が続くことは本人のためにならないと考え,部活動を辞めて学業に集中してほしいという考えを持っていたとします。

このような場合,多くのケースでは,「部活をとるか,勉強をとるか」という二者択一思考に陥ってしまい,結局夫婦が対立してしまうことになります。

そして,このような対立が他の問題においても発生すると,ストレスが蓄積し,夫婦関係がどんどん悪くなっていくという悪循環に陥ることも少なくありません。

しかし,「部活をとるか,勉強をとるか」という二者択一ではなく,「部活も続けつつ,成績を上げるためにはどのような方法があるか」という「第3の案」をどちらかが考え始めたらどうでしょうか。

もう片方の当事者は,相手がそのようなことを言い出した場合,「頭の中がお花畑にでもなったんじゃないか。そんな都合のいい方法なんてあるわけないじゃないか。」と,最初は反発するかもしれません。

ですが,相手がどう思おうが,こちらはあくまで第3の案を考えるというスタンスを貫くのです。

そして,上記の例でいえば,例えば部活も熱心にやっていて,かつ,成績も良い人のライフスタイルを真似するとか,部活の合間の短時間でも成績を上げられる効果的かつ効率的な勉強法を考えるとか,そういった第3の案候補をどんどん出していくわけです。

相手も子供の親なわけですから,できることなら,部活も勉強も両立してもらえたらそれに越したことはないと思っているはずです。そんな中,そのような第3の案を全力で探す姿勢を見せれば,乗ってこない理由はありません。

まして,「部活も勉強も両立できる方法を(子供も含めて)みんなで考えよう!」という提案をすれば,なおさらでしょう。

第3の案を探すという行為は,このように,最終的には相手方との共同作業になっていきます。そうすると,今まで対立関係にあった二当事者は,いつのまにか,お互いのwin-winを一緒に探す協力関係となっていくのです。

問題が発生した時に,どちらか一方だけの考えを押し通すというやり方ではなく,お互いにとってwin-winとなる第3の案を探す癖が身についていれば,対立関係のエスカレートによるトラブルに見舞われることはほとんどなくなります。

「対立から協力関係へ」というこの劇的なパラダイムシフトを,ぜひ皆さんも体感していただきたいと思います。