阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2016 07.20

「自立」した人が陥りやすい罠(後篇)

昨日に引き続き,「自立」した人が陥りやすい罠についてお話ししていきたいと思います。

昨日は,自立状態にある人は,自らが確固として保持している自分軸に基づいた正義や,守るべきルールを持っていることをお話ししました。

そのため,自分の周りの人がこれに反するような行為をしている際に,義憤に駆られて,「あなたの〇〇というところはおかしい。改善すべきだ。」というような指摘をするという行動を選択しがち,というお話もさせていただきました。

しかし,このようなアプローチは,「相互依存」という公的成功の頂に達することはもちろんのこと,「依存」状態にある人を「自立」状態に引き上げるということも期待できないと言わざるを得ません。

なぜなら,人はそれぞれ,世界中の誰とも違うパラダイム(=考え方,ものの見方,価値観)を持っており,そのパラダイムそのものが変わらない限り(=パラダイムシフトが起きない限り),他者のパラダイムに則った忠告を素直に受け止めることは困難だからです。

これは,異文化コミュニケーションで考えればすぐにピンとくる話だと思います。

例えば,日本はバス,地下鉄,JR等の公共交通機関が遅れることについて,利用者から非常にシビアな反応が出ることが多いですが,1時間や2時間遅れるのは当たり前,というような国もあり,そのような国では皆さん全然気にしなかったりしますよね。

これは,どちらが正しいとか間違っているという話ではなく,単に国民性という視点から見たパラダイムの違いがあるだけです。

そう,文化の違いや国民性の違いも,結局はパラダイムの違いということなんです。

だから,日本人であっても,外国の方のようなパラダイムを持っている方もいますし,逆に外国の方であっても,日本人以上に日本人らしいパラダイムを持っている方もいます。

このように,原則として,人のパラダイムは,善い・悪いと簡単に切り分けることはできません。

ところが,自立状態にある人は,なまじ自分のパラダイムに自信をもっているばかりに,そのパラダイムを他者に求めることは「正しいこと(善いこと)」であると考えてしまいます。

これが,自立した人が陥りやすい罠の正体です。

ここまでの内容を見て,

『でもでも,例えば頻繁に遅刻をしたり,簡単に約束を反故にしたりする人がいた時に,本人に改善しようという意志が見受けられなかったら,そのような信頼口座の引出行為(=他者の信頼を失う行為)はその人の人生にとってマイナスな影響を及ぼす可能性が高いから,やめておいた方がいいよ,と忠告することはおかしいの!?だって,言われなきゃわからない人っているじゃん!!』

と思った方もいらっしゃるかもしれませんね。

そのような感覚も,「言われけなれば気づかない人には忠告してあげるべきではないか」という考え方も,何もおかしくありませんし,むしろ一定程度理に適っていると思います。

ただ,「相手に行動を改善してもらう」という大事な大事な目的を効果的に達成する方法として,単に「あなたは間違っている。」と忠告するという方法はあまりお勧めできない,というのが私の意見です。

本ブログでも度々お話ししていますが,人に行動を変えてもらいたい場合,その人自身が自ら望んで自発的に行動を変えようという動機付けを持ってもらわない限り(≒パラダイムシフトが起きない限り),本当の意味で目的を達成したとはいえません。

人に強制されて動いたとしても,その強制から解放されれば,結局は元に戻ってしまうのが人間です(嫌な上司の命令で仕方なくやっていたことは,その上司がいなくなったらやらなくなりますよね。)

だから,「自立」状態にある人は,徹頭徹尾「相互依存」を目指して,第4の習慣(Win-Winを考える),第5の習慣(まず理解に徹し,そして理解される),第6の習慣(シナジーを創り出す)という公的成功に向けた習慣に基づいて行動すべきだと考えられるわけです。

もちろん,「相互依存」は「自立」状態にある人同士であることが前提ですから,相手が「依存」状態にある場合には,まず相手に「自立」状態まで上がってきてもらう必要があります。

その場合も,上記のようにこちらのパラダイムに則った一方的な忠告や注意により強引に行動改善を促すのではなく,あくまで,その人が私的成功を果たす(=第1~第3の習慣に則って生きる)ために必要な行動変革やパラダイムシフトを,自らの勇気と意志で行えるように“支援する”というアプローチが望ましいと考えられます。
(このあたりは,相手の依存状態の程度によって,コーチングやカウンセリングの技術が必要な場合もあります。大手企業のマネージャー層の方がコーチング技術を学んだりするのは,部下の育成においてこのような“支援する”アプローチを上手に駆使するためであろうと思われます。)

成果が出ていて周りからの評価も高い方ほど,『しっかりと成果を出していて周りかも認められている自分の考えは間違っていないはずだ。だから〇〇もそのような考え方をすべきだ。』というような発想になり,つい,「罠」に陥ってしまうことがあります。

皆さんも,ご自身が「罠」にはまらないことはもちろんのこと,周りでそのような方を見かけたら,『パラダイムを一方的に押し付けるのではなく,相手の行動変革やパラダイムシフトをどう支援するか』という視点で考えた方がより効果的ではないか,とアプローチしてみてくださいね。