阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2016 06.09

「相手の立場に立ってものを考える」ことに対する誤解

私たちは,子供の頃から色々な場面で,「相手の立場に立ってものを考えなさい。」と教わります。

実際,大人になってからも,仕事でも家庭生活においても,相手の立場に立ってものを考えることが重要であることについては,おそらく誰も疑問には思わないことでしょう。

ところで,皆さんは「相手の立場に立ってものを考える。」って,具体的にどんな風にされていますか?

私は以前,ある方からの相談の中でこんなやりとりを経験しました(仮に「Aさん」とします)。

Aさん:「先生,知人が,貸したお金を約束の期限になっても返してくれない上に,電話やメールで催促しようとしても全然まともな反応がないんです。どうしたら良いでしょうか?」

私:「そうですか。では,Aさんが相手方の立場だったら,こういう時,借りている人からどういう形でアプローチをされたら返したくなるかを考えて,それを実行してみてはいかがですか?」

Aさん:「私が相手方の立場だったら,そもそも約束した以上はちゃんと誠実に返済しますね。まして,相手から「返してほしい」と言われたらなおさらです。」

さて,上のケースで,Aさんは「相手の立場に立ってものを考えて」いたといえるでしょうか。

このケースでは,Aさんの目的は,「知人からできるだけ早くきちんとお金を返してもらうこと」にあることは明白です。

そのため,私は,この目的を達成するために『その人自身ができることの中で最も効果的な行動』について,極力Aさん自身が自発的に気づくような方法でお伝えしたいと思っていました。
(その方が,本人がその後の行動に移りやすいからです。)

そこで,『このような場合,あなたが相手方の立場だったら,どのようなアプローチをされたら返済する気になるか』ということを考えてほしかったわけです。

『その人自身ができることの中で最も効果的な行動』というのは,ケースバイケースではありますが,これを判断するに当たって重要なことは,当然ながら,相手方に対する「効果性」です。

そして,相手方に対する効果性を考えるためには,「この人はどういう風にこちらからアプローチされたら動いてくれるのだろうか。」という視点で,相手方の思考を追いかけていく必要があります。

それがまさに,「相手の立場に立ってものを考える」ということです。

相手方の思考を追いかけていく作業である以上,「自分が相手の状況であればこうする」という形で想像力を働かせることは的確とはいえません。

そのような方向で考えてしまうと,「自分だったらとっくにこうしているのに,なぜ相手はそういう行動をとらないのか。」というところで思考がストップしてしまいます。

しかし,むしろその先を考えることが肝要なのです。具体的には,以下のような思考プロセスになると思います。

なぜ相手はそういう行動をとらないのか

そういう行動をとらない何かしらの理由があるはず

どんな理由があるのか

(相手方のこれまでの言動と現在の状況を踏まえれば)理由aとか,理由b等が考えられるのではないか(←ここがまさに「相手方の立場に立ってものを考える」の核心です!!)

理由aだった場合と理由bだった場合のそれぞれについて,どのようにアプローチすることがベストかを考えよう

 

では,Aさんのケースで,どのような思考プロセスをたどるべきか考えてみましょう。

ここでは,Aさんはまさに「約束の期限をとうに過ぎて,自分がさんざん督促をかけているのに,なぜ相手は一向に返済しようとせず,まして連絡もまともにとろうとしないのか。相手が何を考えているのか全然わからない!というか,こんな不誠実な人間の考えていることを想像したくもない!」というような状態になっていました。

ここで思考をストップさせずに,相手の立場に立ってものを考えるという作業を進めると,例えば以下のような思考プロセスがあり得ると思います(※これは正解のない話ですので,あくまで一例です。)。

さんざん督促をしてきたが,返済もなく,連絡も取れなくなった。
↓なぜか?
・現実にお金がなく,返済の目処が立たないのだが,それを説明したところでどうせAさんから厳しいことを言われるだけだから,それが嫌で連絡も避けているのではないか(理由a)
・最初から,半ばAさんを騙す気で借りていて,まんまとこのまま返済を逃れるつもりなのではないか(理由b)
・実はこちらが知らないだけで,やたらと多忙な人でなかなか電話を折り返したりする暇もないのではないか(理由c)

理由cの可能性は低い気がするし,理由bの場合は,返済を受けるのは困難だろうから,今後二度と騙されないように今回の経験を活かすことを考えるしかない。そうすると,打ち手を考えるべきなのは理由aの場合だろう。

理由aの場合,こちらが一方的に厳しい督促を貫く姿勢では,益々コミュニケーションをとることが難しくなって,結局返済を受けられない可能性が上がりそうなので,まずは相手の事情をしっかりと聞いてあげて,相手方がどうしたら返済できるかを一緒に考えてみよう(=具体的打ち手)。

 

このような思考プロセスをたどっていけば,問題を解決できる可能性はぐっと上がります。

ただ,そうは言っても,自分1人でこのような思考プロセスをたどっていくことはなかなか容易なことではないですよね。

そういう時こそ,1人で悩まず,ぜひ私を活用してくださいね(^^)