阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2018 03.07

リーダーの重要原則③~責任は自己決定から生まれる~

経営者やリーダーポジションを担っている方々からお話を聴く際によく出てくるお悩みとして,以下のようなものがあります。

・「部下に責任感がない」

・「自分の仕事を自分の責任で行うという自覚が足りない」

皆さんの中にも,同様のお悩みをお持ちの方は少なからずいらっしゃるのではないでしょうか。

今日は,このようなお悩みの解決に効果的な原則を紹介します。

それは,「責任は自己決定から生まれる」という原則です。

この一言だけでは何のことやらという感じですので,具体的に紐解いていきましょう。


まず,「責任感がない」とか,「自分の責任を自覚していない」というのは,より具体的に言い換えるとどんな状態のことを表すのでしょうか。

これには色々な解釈があると思いますが,私は,

・自己の行動の結果(※望ましくない結果)を他人のせいにする習慣がある状態

・自らのなすべきことを自ら決めることができず,誰かに指示されることを待つ習慣がある状態

というのが,「責任感がない」ということとほぼイコールだと考えています。

実際,皆さんが「責任感がない」というイメージを持っている方を思い浮かべていただければ,上記の状態に当てはまっている人がほとんどではないかと思います。


さて,それでは,どうすれば人は,自己の行動の結果について,それが望ましくないものであったとしても,他人のせいではなく自分の方に目を向けて,自らの責任を自覚し,同じ失敗を繰り返さないように自らの行動を見直す習慣が身につくのでしょうか。

それは,らの行動を明確に自ら判断し,自ら決める習慣を身に着けること」です。


なぜ,自分が行動したことの結果を他人のせいにしてしまう習慣が形成されてしまう人が少なくないのでしょうか。

それは,その人が,「自分の行動を他者によってコントロールされた」という意識が働いてしまうからです。

わかりやすいのは上司が部下に特定の行動を指示するケースです。

仮に,指示どおりに行動したのに結果が芳しいものではなかったとします。

このような時には,『部下である自分がどのように行動するかを判断し,決定して指示したのは上司なのだから,この結果は上司のせいであって,自分のせいではない』と考えてしまうのです。

もちろん,このような場面であっても,「上司の指示を受け入れて,そのとおりに行動するべきだ」と判断し,そのように行動することを自己決定したのは部下本人ですから,本来的には部下にも自分の意思決定に対する責任は発生しています。また,それに伴って部下自身に発生している結果は,誰の責任でもなく部下自身の責任です。

とはいえ,上命下服関係が基本となる組織において,一方的な指示命令を受けた部下に対して上記のような責任感の自覚を求めることはなかなか厳しいものがあるでしょう。

そのような意識を持てる人は,たまたま親御さんからそのような人格的教育を受けてきているとか,自身の哲学や宗教等からそのような考え方を習慣にしているとか,そのようなごく少数の例外的な人に限られると思っておいた方が良いです。


では,リーダーは,どのようにメンバーと関わることで,このようなメンバーの習慣の変化を促すことができるでしょうか?

色々なやり方はあると思いますが,重要なことは,メンバーに自分の行動を自分自身で考えて判断してもらい,決めてもらうことです。

指示命令をするなということではありません。指示命令の仕方を工夫する,ということです。

例えば,「Xというメンバーに,●●という成果目標を達成するためにAという業務をやってもらいたい」という場面があったとします。

こういう場面では,大概,「Xさん,Aをやってください。」というような指示をしますよね。

もちろん,それはそれでおかしな指示ではないのですが,メンバーの責任感を高めたいという成果目標を持っているとしたら,やり方を変えた方が効果性が高まります。

具体的には,もっとXさん本人に,自らの行動選択について考えてもらうきっかけを提供することが効果的でしょう。

例えば,

「Xさん,●●を達成するために今Xさんが具体的にできる行動の選択肢としてどんなものがありますか?」

と尋ねたら,部下は自然に自分の行動選択について考えますよね。

あるいは,そこまでオープンに聞くのはまだメンバーのレベルからしてハードルが高いようであれば,

「Xさん,私は●●を達成するためにAという業務をお願いしたらいいかなと思うのですが,あなたはどう思いますか?」

というように,行動の選択肢自体は絞った上で考えてもらっても,一定の効果はあるでしょう。

ただし,そこで素直に自分自身で考えることをせず,「いや,××さんが私にAをやれというのであれば,やります。」というような回答が来ることもありえます。

これは責任をリーダーに預けようとする姿勢ですので,注意が必要です。

時間的余裕のない緊急的な業務であれば,(優先順位として部下の育成の効果性よりも発生している問題を解決することの方が重要な場合もあるので)無理をする必要はありませんが,そうでなければ,

「●●を達成するためにXさんがAという業務をやることが効果的かどうか,あなたの考えを聞かせてほしい」

というように,あくまで自分のとる行動について,(きっかけは上司からの指示や働きかけだったとしても)自分で考えてそれを選ぶ,という意思決定の過程を意識してもらうことが重要です。


このような過程を経ることで,『自分の行動は上司によって一方的に決められたものだ』という意識が薄まり,『自分で考えて自分で決めた行動である以上,そのことによって自分に生じている結果については自分に責任がある』という感覚が身に付きやすくなります。

ちなみに,このような,自らの行動選択によって自分に生じている結果について自らの責任を自覚するという姿勢のことを,「7つの習慣」では「主体性」と表現しており,著者のスティーブン・R・コヴィー博士は,全ての習慣の基となる「第1の習慣」に,「主体的である」という習慣を掲げています。

それだけ,主体的であるというのは重要な行動習慣ということですね。

全く主体的でない人に主体性を持ってもらうよう促すことは楽ではありませんが,主体性を持ってくれるようになった時に得られる効果はその苦労を補って余りあります。


なお,主体的でない人から主体性を持つように促されても効果性は低いので,『ついつい結果について他人のせいにしてしまいがち』という自覚がある方は,まずご自身の習慣の見直しから始めることをお勧めします。

その場合でも,リーダー自身が変化することでメンバーの変化を促すことができますので,いずれにしても効果性は高いです。


リーダーとしての自分の主体性を磨くことと,メンバーの主体性を引き出すこと,どちらも重要なことですので,ぜひ意識してみてくださいね!