阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 07.04

皆さんは,自分とは全く異なる考え(もっといえば,自分とは真逆の考え)を主張されたとき,どんな反応をしていますか?

驚く?

憤る?

ショックを受ける?

人によって感じ方は様々かと思います。


私が選んでいる反応は,「興味を持つ」です。

私が最近心がけていることの1つに,「どんな考え方も否定しない」という習慣があります。

およそ自分の感覚としては「それはどうかな~?」と思うことであっても,

「そんな考え方はおかしい」

とか,

「意味がわからない」

とか,そういう否定的な反応をせず,

「どうしてそのような考えを持つに至ったのか?」と興味を持って,可能な限り,相手にその考え方に至った背景や経緯等を尋ねるようにしています。

これは,言い方を換えれば,どんな考え方でも,その人個人が有する唯一無二の価値観として尊重する,ということだと思っています。


人はつい,自分と相容れない考え方や意見を示されると,苛立ちを覚えたり,腹が立ったり,へこんだり,そういったマイナスな感情を覚えがちです。

でも,ちょっと考えてみてほしいのです。

私たち個人が持っている考え方や意見というのは,万人が認めてくれるような絶対的価値を有するものなのでしょうか?

そんなことはありませんよね。

そうだとすると,自分と異なる考え方や意見が出てくることは,至極当たり前のことといえそうですね。


では,そんな当たり前の状況が発現しているだけなのに,なぜ人は,苛立ったり,腹を立てたり,へこんだりしてしまうのでしょうか。

それは,自分と異なる考え方や意見が出てくると,自分の考え方や意見が否定されたような気がして,自分という人格を否定された(り,そこまでいかなくとも,自分という一個人が認めてもらえていないのではないか)という恐怖を感じてしまうからです。

逆に言えば,自分と異なる他者の意見に対してそれを否定しようとしてしまうのも,結局のところは同じ恐怖感が背景になっています。

自分と異なる意見を認めて受け入れてしまうと,自分という人格を否定することになってしまうのではないか,という感覚をもってしまうんですね。

しかも,厄介なことに,このような「自分という人格を否定することになってしまうのではないか」という感覚は,ほぼ無意識に作用します。

では,表面的な意識としてはどのような感覚が生じているかと言いますと,

「苛立ちを感じる態度をとられた」

とか,

「腹が立つようなことを言われた」

というような感覚なわけですね。


でも,どうでしょうか皆さん。

皆さんが他者に対して,他者とは異なる自分の考えや意見を述べる時に,“相手の人格そのものを否定しよう”などという気持ちになっているでしょうか。

まあ,よっぽど憎らしく思っている相手ならそういうこともあるかもしれませんが,大抵はそこまでのことは思っていませんよね。

多くの場合は,例えば以下のような動機のもとに相手に対して異なる考え方や意見を発しているのではないでしょうか。


・「こういう考え方もあるのではないか」という情報提供をしたい

・(相手と異なる)自分の考えや意見を相手がどう思うのか聞いてみたい

・相手の抱えている問題解決についてより効果的と思われる方法を伝えたい

・相手の考え方をそのまま推し進めてしまうと,結果として相手(もしくは自分も含めたグループ全体)に不利益が起きそうだから考え直してほしい


このように,人は,他者に対して,(他者と異なる)自分の考え方や意見を伝えるにあたって,相手の人格を否定しようなどという気持ちはほぼ持っていないのです。

それなのに,受け止める側が勝手に,“自分の人格を否定されたのではないか”と思い込んで,自分を守ろうと防衛的態度をとってしまうのです。

平たく言ってしまえば,誤解や思い込みによって,自分1人で勝手にイライラしたり,勝手に腹を立てたりしているようなものです。


では,どうすればそんな風に誤解や思い込みによってイライラしたり腹を立てたりすることを避けられるでしょうか。

方法自体はごくシンプルです。

自分と異なる考え方や意見を一切否定せず,1つの貴重な情報として吸収するのです。

吸収するといっても,それを必ず採用する(=必ず自分の考え方や意見を他者に合わせる)ということではありません。

『Aさんは,●●という背景や理由をもって,~~という考え方や意見を形成している』

『Bさんは,××という背景や理由をもって,~~という考え方や意見を形成している』

というように,1つ1つ,自分の中での知識として蓄えていくということです。

そして,その中で自分もぜひ取り入れたいと思うものがあれば採用し,自分の判断基準に照らしてこれはちょっと違うな,と思うものは反面教師にすればよいのです。


このような知識が積みあがっていくことによって,人の考え方の傾向が見えてきたり,あるいは仲間であるAさんやBさんの考え方の傾向が見えてきます。

このような気づきは,間違いなく今後の自分自身の活動にとってプラスに活用することができますよね。


松下幸之助は,著書「素直な心になるために」の中で,素直な心内容十か条の1つとして,「寛容」を挙げています。

そして,その項の中で,「お互い人間一人ひとりは,それぞれに個性というか持ち味を異にしていますが,そのどれもが尊く,また共同生活の向上のために有用なものではないかと思います。」と述べています。


自分と異なる考え方や意見を頭から否定してしまうと,その時点で,以上のような恩恵は一切受けられません。


ぜひ,「否定しない習慣」を意識してみてくださいね!