阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 05.19

「言い訳」と「正当な理由」の分かれ目とは

私のブログを読んでくださっている方から,「言い訳」をテーマにしてほしいという大変ありがたいリクエストを頂きまして,私自身も取り上げてみたいと思うテーマだったので,今日は「言い訳」について考えてみたいと思います。


さて,早速ですがご質問です。

これまでの人生の中で,一度も言い訳を言ったことがないという方はいらっしゃいますでしょうか?

おそらく,一人もいないのではないかと思います。

若いころから人格的な修養を積み,悟りを開いているような人でも,さすがに幼児の頃には,親に対して言い訳の一つも言ったことはありますよね。

もちろん,私もそうです。

というか,「言い訳は信頼関係にマイナスの効果を与える」という原則が重々わかっているにも関わらず,未だに時々言ってしまいます。

(まあ,それでも昔に比べればだいぶましになったとは思っておりますが・・・(^_^;))


人はどんな時に言い訳をしますか?

それは,他者から何らかの行動を求められている時に,その行動をとっていない理由を説明するときです。

もっとも,「言い訳」というのは,辞書的な定義としては,「自分の言動を正当化するために事情を説明すること」とされていますが,実質的には,(本来的には一定の落ち度があるにも関わらず)自分の落ち度を取り繕おうとする行為(=他者との信頼関係に対してマイナスの効果を及ぼす行為)と認識されていますよね。

イギリスの詩人アレキサンダー・ポープは,「言い訳は嘘よりももっと悪くもっと恐ろしい。なぜなら言い訳は防衛された嘘だからである。」と語っています。

この言葉は,言い訳という行為が持つマイナスの影響を端的に表現しているのではないかと思います。

これに対して,一定の行動がとれていないときに,そのことについて信頼関係にマイナスの効果を与えないような「正当な理由」がある場合もありますよね。


では,「言い訳」と,「正当な理由」を分ける境界線はどこにあるのでしょうか。

具体例で考えてみましょう。

例えば,車通勤の社員が会社に遅刻してしまった時に,「いつもより道が混んでいまして・・・」と説明したとします。

さて,これは「言い訳」でしょうか。それとも,「正当な理由」でしょうか。

人によって評価は分かれると思いますが,私の基準では,道が混んでいる理由が,予測不可能な天変地異によるものであったとか,そういった余程特殊な事情が無い限り,これは「言い訳」に該当します。


私が「言い訳」と「正当な理由」を分ける判断基準として用いている基準,それは,

① 自らの事前対応によってその事態を回避できたかどうか

② その事前対応をとる必要性があったかどうか

という2つです。

上記の例でいえば,しばしば道が混みあうという事態は,一定程度予測可能な状況と考えられます。

そうであるならば,そもそも道が混んでいても間に合う時間に出発するとか,あるいは地下鉄等,道の混み具合に左右されない手段で会社に来ればいいわけです(基準①)。

また,そのような回避行動をとることで失うものはほとんどないわけですから,回避行動をとる必要性は十分にあったといえますよね(基準②)

したがって,上記の例では,自らの事前対応によってその事態を回避できたと考えられるので,「道が混んでいた」という理由は「言い訳」に該当するというのが私の考え方です。


では,「突然の人身事故で電車や地下鉄が止まってしまった」というような状況ではどうでしょうか?

このような場合は,

・どのくらい遅れるか

・決められた時間までに目的地にたどりつく必要性

・代替移動手段の有無

・代替移動手段に要するコスト

等の要素から,上記①,②の基準に当てはまるかどうかを総合的に判断していくことになるでしょう。


例えば,

・どのくらい遅れるか ⇒ 1時間遅刻する

・決められた時間までに目的地にたどりつく必要性 ⇒ 定時につかないと間に合わない緊急的な業務はないので,必要性は高くない

・代替移動手段の有無 ⇒ タクシー

・代替移動手段に要するコスト ⇒ (電車だと300円のところ)タクシー代3000円

というような状況を想定してみましょう。


まず,タクシーに乗るという自ら選択可能な事前対応により遅刻を回避できるので,①は満たすと考えられます。

では,②はどうでしょうか?

この場合,あえて通常の10倍もの移動経費をかけてまで定時に間に合わせることは,かえって損失が大きいという考え方は十分にあるところでしょうね。

そうであれば,(失われるコストからみて)タクシーを使うという事前対応を行う必要性に乏しいと考えられることから,このような場合は「電車が止まってしまったので1時間遅刻します」というのは言い訳ではなく「正当な理由」と評価できるでしょう。


これに対して,

・どのくらい遅れるか ⇒ 1時間遅刻する

・決められた時間までに目的地にたどりつく必要性 ⇒ 自分が講師となるセミナーがあり,予定時刻に間に合わないと多くの人に迷惑をかけることになる(=よって必要性が高い)

・代替移動手段の有無 ⇒ タクシー

・代替移動手段に要するコスト ⇒ (電車だと300円のところ)タクシー代3000円

というような状況であったらいかがでしょうか?


一見すると,「突然の人身事故で電車が止まってしまったという不測の事態であれば,遅れても仕方ない」という話もありそうですが,実際のところは3000円を支払ってタクシーに乗れば間に合う状況なわけですよね。

したがって,まず事前対応は可能ですね(①)。

では,②(=回避行動をとる必要性)はどうでしょうか。

ここでは,タクシーに乗ればそこまで著しく高いコストをかけずに間に合ったのに,そのような代替手段を取らずに,電車が止まったことを理由にして遅刻するというのは,そのセミナーのために貴重な時間やお金を投じてくださった参加者の方々との信頼関係にどんな影響を及ぼすか,ということを考える必要があります。

おそらく,マイナスな影響は避けられないですよね。

そうであれば,この場合は,タクシー移動という事前対応を採る必要性が高いと考えられるので,②も満たすと考えるべきでしょう。

したがって,「正当な理由」ではなく「言い訳」と考えるべきだと思います。

ちなみに,この場合に「電車が突然止まってしまって不可抗力で遅れてしまいました。」とだけ理由を説明したら,まさに上記のポープの言葉どおり,本当はタクシーを使うことで間に合わせることができたのに,さも間に合わせることは不可能であったかのような「防衛された嘘」をついているといえますね。


実際,世の中のほとんどの場合は,他者から求められている行動をこちらが取れていないときに,相手のこちらに対する信頼が一切減退しないような「正当な理由」などほとんど存在しません。

それは,ほとんどの場合,何らかの事前対応を講じることで,「求められている行動がとれていない」という事態を回避することが可能であり,かつ,そのことについて大きなコストや負荷が発生するということはないからです。

だから皆さん,相手が求めている行動を取れていなかったときには,自分が採りえた事前対応を取れていなかったことを素直に謝りましょう。

自分の落ち度を認めて素直に謝るという行為は,基本的に他者との信頼関係においてプラスに働きます。

例えば,予想よりも道が混んでいて遅れそうなときは,

「思ったより道が混んでいて遅れる見込みです。このような状況を想定してもっと早く出発するべきでした。申し訳ありません。」

というような感じです。


ちなみに,相手に事前に連絡できるときは上記のような話し方で良いと思いますが,例えば事前に連絡できない状況で遅刻してしまった,というような場合は,相手から理由を問われない限りは,ただ遅れたことを謝罪した方が無難です。

聞かれてもいないのに遅れた理由を説明しようとすると,例え最終的には自分の落ち度を認めて謝罪するという形であったとしても,言い訳っぽい雰囲気がどうしても出てしまうからです。

ある本の中で,「事前に伝えられた時は『説明』になるが,事後に伝えた場合は『言い訳になる』」というような記載があったのですが,これは非常に的を射ていると思います。


と,こんなお話をしておきながら,お恥ずかしいことに,私もまだ言い訳めいたことを言ってしまうことはしばしばあります。


お互いに,極力言い訳は口にせず,他者との良好な信頼関係を築き上げていきたいですね!