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20175.2

人を説得するために効果的な原則(「イエス」と答えられる問題を選ぶ)

皆さんは,自分に対して敬意を払い,笑顔を向けて親切な態度をとる人と,自分に対して何かと文句ばかり言ってくる人との2人それぞれから何らかのお願い事をされたとしたら,どちらのお願いの方が,聞いてあげる気になるでしょうか。


先日,高齢の男性から以下のような相談を受けることがありました。

曰く,『集合住宅の上階に住んでいる人の騒音がうるさい。直接苦情も言っているし,管理会社にも伝えている。警察も呼んだことがある。それでも一向に改善する気配がない。何か手立てはないだろうか。』

ということでした。


賃貸でも分譲でも,マンションやアパートなどの集合住宅では,上下階や隣同士等で騒音トラブルがしばしばありますよね。

この男性は,それまで,騒音問題を解決する方策(=上階の住民に騒音の改善を促す方策)として,管理会社や警察等の第三者機関なども利用しながら,徹底的に苦情(文句)を言うという選択肢をとりました。

もちろん,これはごく一般的な対応で,おそらく,多くの方は同様の選択をするのではないかと思います。


でもね,ちょっと考えてみてください。

あなたがこの上階の住人の立場になった時に,

「お前のところの騒音でこっちはどれだけ迷惑していると思ってるんだ!いい加減にしろ!」

等と荒々しく文句を言ってきて,挙句の果てには(犯罪行為に関わるような問題ではなく,いわゆる近隣トラブルにもかかわらず)警察まで呼ぶという対応をしてくる相手に対して,『配慮してあげたい』とか,『気を使いたい』という気になるでしょうか。

むしろ逆ですよね。

こんな風に一方的に文句を言われて非難されたら,誰だって,その相手に対して何らかの心遣いをしようという気にはなりにくいでしょう。

まして,騒音というのは,人によって感じ方も異なりますし,なかなか客観的な評価もしにくいものなので,上階の住人にしてみれば,

『普通の生活音を「騒音」などと言って騒ぎ立てられて,とんでもない言いがかりだ。』

というような反発心を抱くことも十分に考えられることからすれば,なおさらですよね。

お互いに生活している以上,一定の生活音を無くすことは不可能です。

また,余程異常な騒音でもない限り,法的な請求によって排除することも不可能です。

そのため,少しでも騒音を減らして快適な生活を得ようと思ったら,とにもかくにも上階の住人にできる限り配慮してもらうしかないわけです。

そうだとしたら,「騒音を減らして快適な生活を得る」という目的との関係で効果性の高い行動とは,「上階の住人が,(下階の住人であるこちらに対して)配慮しようという気になってくれるような関係性を築くこと」ではないでしょうか。


さて,ここで冒頭の質問に戻ります。

皆さんは,自分に対して敬意を払い,笑顔を向けて親切な態度をとる人と,自分に対して何かと文句ばかり言ってくる人という2人の人物から何らかのお願い事をされたとしたら,どちらのお願いの方が聞いてあげる気になるでしょうか。

こう聞かれたら,100人中100人が前者と答えますよね。

当然です。原則ですから。

厳密には,ここでは2つの原則が合わせ技となっています。

1つ目は,「人は,自分に対して敬意を払い,笑顔で親切な態度をとってくれる人に対して好感を抱く」という原則です。

2つ目は,「人は,好感を抱いている相手からの頼み事は受け入れやすい(=相手に対して配慮しようという気持ちになりやすい)」という原則です。

どちらも原則である以上,自明の理(=反論の余地がないこと)なので,特に理屈で考えなくても,皆さん感覚的に納得できるのではないかと思います。


私は以上の原則のことが頭に浮かんだので,ご相談者の男性にこんな風にアドバイスしました。

「騒音を受けている相手に対してこのようなことをするのはなかなか抵抗があるとは思いますが,これまでとは逆に,相手と仲良くなる方向で動いてみるという手があると思います。誰だって,いがみ合っている相手よりも,仲良くしている相手に対しての方が,気を遣おうという気になりますよね?相手の居室を訪問して,相手の言い分を30分黙って聴くだけでも,かなり効果があると思いますよ。」

しかしながら,男性は,

「何で被害を受けているこっちがそんな風に気を使わなきゃいけないのか。そんなことは到底無理だ。」

というようにおっしゃって,その選択肢を検討することはありませんでした。


実は,お恥ずかしい話なのですが,これは私の失敗談です。

いくら専門家への相談で言われたアドバイスとはいえ,完全に今までとは逆の発想をいきなり求められても,人はなかなかそれを素直に受け入れることは難しいですよね。

しかも,上記のようなアドバイスを言ってから気づいたことですが,その相談者の方は,騒音を無くしたいという思いもさることながら,自分がいくら苦情を言っても改善しようとしない上階の住人を懲らしめてやりたいというような思いにも駆られていらっしゃるご様子でした。

そのような思いを抱いている方に,「相手と仲良くした方が効果的ですよ」と言っても,容易には受け入れがたいですよね。

それなのに,私はその点をうまく考慮しきれず,上記のように端的にアドバイスをするという選択肢をとってしまったわけです。

時間があれば挽回策がなかったわけではないのですが,残念ながらそこで時間切れとなってしまい,相談は終了しました。


相談終了後に私が,『ああ,もっとこの原則を活用すればよかった・・・』と思ったのは,「イエスと答えられる問題を強調することにより,人はこちらの話に納得しやすくなる」という原則です。

これは,デール・カーネギー著「人を動かす」の「人を説得する十二原則」という章の中で,「イエスと答えられる問題を選ぶ」というタイトルで紹介されている原則です。

人には,一度「ノー」と言ってしまうと,なかなかその考えを翻すことが難しくなってしまうという傾向があります。

そのため,イエスと答えられる問題,すなわち,お互いに共通している認識を確認するような質問を重ねて,「イエス」という答えを繰り返してもらいながら,段々と核心的なポイントに自発的に気づいてもらうように促すことが,人を説得するにあたって効果的なのです。

上記の相談事例においても,いきなり「~~してはどうですか?」と,今までの逆転の発想を要する選択肢を提示するのではなく,以下のような流れで進められれば,展開は違っていたかもしれないと思います。


例えば,

「●●さんは,上階の方の騒音にお悩みで,その問題を解決したいと思って今日こちらにご相談にいらっしゃったということでよろしいでしょうか?」

「●●さんは,今まで上階の方に直接に,あるいは管理会社や警察を通して間接的に苦情を重ねてこられたけれども,現在も騒音状態は変わっていないということでよろしいでしょうか?」

「そうすると,●●さんとしては,上階の方に,騒音を出さないように気を付けてもらうように行動改善をしてもらいたい,というご要望をお持ちということでよろしいでしょうか?」

まずはこんな風に事実を確認して,解決したい問題と,そのために,誰にどのようなアクションを取ってもらう必要があるのかを明確化し,今この相談はその解決策(相手を動かすための方策)を一緒に考える場なのだ,ということを意識してもらいます。

相手の反応に応じて,場合によってはもう少し類似の質問を重ねることも有効でしょう。


その上で,次のステップとしては,例えばこんな風に切り出していきます。

「ところで,仮に●●さんが誰かから頼み事をされるとして,普段から●●さんに対して敬意を持って親しく接してくれる人と,そうではない人とであれば,●●さんとしてはどちらの頼み事を聞く気になると思いますか?あるいは,単純に,友達の頼み事と,関わりの薄い赤の他人の頼み事,と置き換えても結構ですが,いかがでしょうか?」

「それは●●さんに限ったことではなく,ほとんどの人がそうだと思いますか?」

「ところで・・・」の方は,厳密には「イエス」と答えてもらう質問ではありませんが,原則に対する認識を確認する質問なので,答えはほぼ決まっていますよね。そういう意味では,「イエス」と答えてもらう質問に近いといえます。


このようなステップを踏んだ上で,

「さて,もう一度確認しますが,●●さんは,上階の方に対して,騒音があまり出ないように生活上気を付けてもらいたい,というご要望をお持ちでしたよね?」

「上階の方は,親しい関係にある人と,そうではない人,どちらの要望の方が,聞く耳を持つ気になると思いますか?」

というように,核心的なポイントへと進んでいくというのが,大まかな流れのイメージです。


もちろん,このようなステップを踏んでいったとしても,『被害者である自分が相手に対して気を使わなければいけないのは道理に合わない』という思いが強い人であれば,結局は考えを変えない可能性もあるでしょう。

こちらでできる効果的なアプローチを尽くしてもお考えが変わらないのであれば,それはやむを得ません。最終的に決めるのはご本人ですから。


ただ,原則に照らしてより効果的な選択肢があると考えられるのであれば,できる限り,その選択肢を前向きに検討してもらえるように効果的に働きかけを行うべくベストを尽くすのが,私の役目だと思っています。

そのために,改善できることはどんどん改善していきたいと思っています。


ぜひ,(求める成果に対してより効果的な選択肢を選んでもらうために)人を説得しようと試みる際には,私の失敗談を反面教師にして,効果的なアプローチを試してみてくださいね(^^)!