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20174.28

想像力を働かせよう

「相手が何を考えているかわからない。」

「なぜ相手がこんなことをしてくるのか(orこちらの要望に応じてくれないのか)わからない。」

弁護士としてご相談を受けていると,よくこんな嘆きの声をお聞きすることがあります。

確かに,ご相談者の方から見れば,紛争状態になっている相手に対して疑問だらけということは無理もないことではあります。

(というか,そうでなければ,弁護士が必要なほどの紛争状態にはならないと思います。)


そのような苦悩は非常によくわかりつつも,私としては,あえて呈したい苦言があります。

それは,上記のような苦悩の大半は,相手が何を考えているのか「わからない」のではなくて,厳密には「わかろうとしていない。」といった方が的を射ているのではないかということです。

あるいは,「相手の考えや行動の背景事情を理解するための努力をしていない」ということもできるかもしれません。


これは,端的に言ってしまえば「想像力」の問題です。

ここでいう「想像力」とは,こちらがわかっている限りの情報から,相手の言動の理由や背景となっていると思われる事情を想像する力ということです。

例えば,私は交通事故被害者の相手方保険会社に対する賠償請求の代理というお仕事を頻繁にやっていますが,ご依頼いただく案件の中において,しばしば保険会社が被害者さんの期待どおりの対応をしてくれないという現象が発生します。

そんなとき,多くの方から,「なぜこんなに保険会社の対応は遅いのか?」とか,「なんで保険会社はこちらの主張内容を理解しようとしないのか?」というような疑問を投げかけていただくことがよくあります。

被害者なのに迅速な救済を受けられないという状況についてご不満に思われることはまったくもって無理からぬことなのですが,それはそれとして,上記のような疑問については,よくよく想像力を働かせれば,その答えとなりうるおおよその理由や背景事情が見えてきます。


対応が遅いという現象については,概ね以下のような理由が想像できます。

・ 担当者のキャリアが浅いとか,転勤したてである等の理由で,事務処理に不慣れである

・ 大きな会社なので,担当者が考えた案について上司の決裁を経るのに時間がかかる

・ 加害者本人(=保険会社にとっては契約者)に確認しなければならない事柄なのだが,なかなか本人と電話がつながらない(※本人が日中仕事であまり電話対応できない等)

・ 基本的に保険会社は「支払を求められている側」なので,(好ましいことではないにしろ)解決までに時間がかかってもダメージが少なく,迅速に解決したいというニーズが少ない


また,こちらがそれなりに筋の通った主張をしてもを受け入れないという現象については,概ね以下のような理由が想像できます。

・ 担当者の経験や知識が浅く,法的評価についてあまりイメージができていない

・ 加害者本人がどうしても納得しない(※保険会社はあくまで加害者本人の手続代行役に過ぎない)



さて,以上をご覧になった方の中には,

『それは阿部竜司が普段から弁護士として交通事故案件に携わっているから想像できることであって,一般の素人には想像できないのではないか?』

と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

確かに,想像しやすい,しにくいという意味では,私のように日常的に交通事故案件に関わっている人間の方が,想像しやすいことは間違いないと思います。

ただ,可能か不可能かでいえば,専門的知識や経験のない方であっても,上記のような事情を想像することは可能なのです。

上記の各事情を想像するにあたって私が根拠としている情報は,概ね以下のようなものです。

① 担当者が人間であること

② 主要な保険会社は全国に支店のあるような非常に大きな会社であること

③ 保険会社は,基本的に「支払を求められている側」の立場であること

④ 保険会社は加害者本人の手続及び支払代行という立場であること


さて,これらの情報は,専門家でなければほとんど知りえないようなものでしょうか?

そんなことはありませんよね。

①はごくごく当たり前のことですし,②も,多くの保険会社がTVCM等の広告宣伝を行っていることなどからすれば,把握は容易でしょう。

③や④も,現に交通事故が発生している状況の被害者の立場にある方であれば,比較的容易に把握できる情報でしょう。


このように,想像力を働かせるための根拠となる情報は,専門家でなくとも知りうるものばかりなのです。

そうであれば,あとは想像力を働かせるか否かだけの問題になるわけです。

そして,想像力を働かせる上で重要になってくるのが,個人や人間関係(組織)における「原則」に対する意識です。

例えば「①担当者が人間であること」というのは,あまりにも当たり前すぎて,意識する人はほとんどいません。

ですが,「担当者が人間であること」(=機械ではないこと)というのはとても大きな意味を持ちます。

人間である以上,完全・完璧な仕事をすることなどほぼありえません。

人間である以上,感情で行動するので,必ずしも論理的・合理的行動をとるとは限りません。

人間である以上,仕事の仕方には個人差があります。

人間である以上,経験や知識の浅いことをするには時間がかかります。

人間である以上,職場に苦手な上司や同僚がいれば仕事に身が入らない可能性もあります。

これらはいずれも,「人間であること」から導かれる原則です。


その他の事情についても,原則ないしはそれに近い一般的傾向を考えてみれば,色々なことが見えてきます。

「②大きな会社であること」からすれば,社長1人で全ての仕事をしているような個人会社と比べて,組織内での意思決定に時間がかかりそうであることは想像できますよね。

それに,大きな会社であれば,転勤もありそうですよね。


「③支払を求められている側の立場であること」というのは,自分たちの目的(=できる限り少ない賠償金額〔経費〕で示談すること〕を達成する上で,積極的に裁判等をする必要がないということです。

この点は,裁判に関する知識が必要ではないかとも思えますが,結局のところ,被害者側と加害者側のどちらが,他方に対して具体的なアクションを求めているのかという構造に思いを致せば,裁判の知識がなくても想像することは可能です。

というのも,お金を支払ってもらいたい側(=被害者)と,支払を求められている側(=加害者)とで,相手に対して具体的なアクションをしてもらう必要があるのはどちらでしょうか?

支払ってもらいたい側(=被害者)ですよね。

被害者は,加害者側に「お金を支払う」という具体的なアクションをしてもらわないと,適切な賠償を受けるという目的を達成できないわけですから。

これに対して,加害者側は,被害者が求めていることを「受けいれて対応するか,それとも拒否するか」というように,もっぱら自分の行動選択のみを考えればいい状況であり,被害者側に何かアクションをしてもらわないと困る,ということはあまりありません。

そうすると,解決までに時間がかかることで困るのは,まさに,加害者側から「賠償金を支払う」というアクションを取ってもらわないといつまでたっても被害の回復を図ることができない“被害者側”ということになりますよね。

だからこそ,加害者側である保険会社は,紛争が長期化するという事態を避けようとする動機付けが被害者側に比べて薄くなるわけです。

これは,法律的知識うんぬんではなく,被害者側と加害者側,それぞれがどのような目的のもとに交渉を行っているのかということに思いを巡らせれば,自ずから見えてくることです。


最後に「④保険会社は加害者本人の手続及び支払代行という立場である」ということについて考えてみますと,仮に保険会社としては裁判による紛争解決が望ましいものとは思っておらず,被害者側が納得するような譲歩を検討すべきと考えていても,事故の本来的当事者である契約者本人がそのような譲歩を認めないという意向であれば,(ある程度説得などの過程はあるにせよ)最終的には契約者の意向が優先されることになります。

そのため,どんなに被害者側がまっとうな理屈を整理して主張したとしても,加害者本人が自分自身のパラダイムに基づいて譲歩を拒絶すれば,交渉による解決は望めないということになります。
(※もちろん,被害者と加害者が逆のパターンもありえます)


以上のように,多くの人が認識しうる事実(情報)から,現在起こっている現象(例:相手の対応が遅い,相手の反応が不合理である等)の理由として考えられそうなものを様々に想像することは,実は専門的な知識等を有していなくても可能なのです。

(強いていえば「原則」はある種の専門的知識という意見もあるかもしれませんが,「原則」は「正直者は信頼される」のように,本来的には自明の理といえる法則なので,勉強しないとわからないような専門的知識ではないというのが私の考えです。)

このように,想像力を大いに発揮することは,様々な場面でみなさんの考えを広げてくれたり,新たなアイデアに対するひらめきをくれたりします。

ビジネスにおいて,「仮説」をうまく活用して効果的・効率的な行動をとっている人は,このような想像力の働かせ方が上手い方々といえるでしょう。

「仮説」の構築とは,まさに,認識可能な情報と現象とを結びつける一定の事由を想像する作業にほかならないからです。


ぜひ,認識可能な事実(情報)と,現在起こっている現象を結びつける事情について想像力を働かせるくせをつけてみてくださいね!