阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 03.03

人間関係は取引ではない(公平さは時に障害となる)

皆さんは,他者との人間関係において,

「自分はこれだけ相手に色々としてあげているのに,相手がそれに対して恩を返さないのは不公平だ。」

というように考えたことはあるでしょうか。

「公平さ」という価値観で人間関係を考えた場合,このような考え方が頭に浮かんでくるでしょう。

確かに,「公平さ」というのは,ビジネスの世界(取引の世界)においては,win-winを目指す上での重要な観点の1つであることは間違いありません。

ですが,人間関係についてもそれを形式的に当てはめて考えることは,あまり賢い選択ではないと考えられます。

というのも,人間関係において「公平さ」を求めてしまうと,常に自分が相手に対して何か貢献をした時に,それに見合った何らかの恩返しがないと不満が蓄積してしまうからです。


例えば夫婦関係において「公平さ」を求めた場合,こんなやりとりがなされる可能性があります。

仕事で忙しく,疲弊した状態で家に帰ってきた夫に対して,妻が,小さい子供のお世話をお願いしているという場面を想像してみてください。

妻:「おかえりなさい。ちょっとお願いなんだけど,もう寝なきゃいけない時間だから,●●(=子供の名前)をパジャマに着替えさせて,歯磨きしてあげて!」

夫:(家族のために仕事をしてきて疲れている自分をいたわってくれないことに不満を感じながら)「おいおい,俺はこんな時間まで残業してもうクタクタなんだよ~。お前主婦なんだからそれくらいやってくれよ。」

妻:(主婦は全ての家事をやるのが当たり前だ,という意識を感じさせる夫の発言に苛立ちを感じながら)「今台所の片付けをやってて手が空かないのよ!父親なんだからそれくらいしなさいよ!」

夫:「おいおい,家族のためにこんな時間まで汗水たらして必死に働いている俺に対してなんだよその言い方は!」

妻:「私だって毎日家で家事をしながら子供のお世話で大変なのよ!自分だけが大変だと思ってるなら大間違いなんだからね!!」

・・・この後数分の口論へ突入


上記のやりとりでは,まず夫が,『自分は遅い時間まで家族のために仕事をして疲れているのだから,家に帰ってきてからはゆっくり休ませてもらうことが公平だ』という価値観に基づいて妻に発言しています。

これに対して,妻が夫の勝手な言いぐさに苛立ちを感じ,つい言い方がきつくなってしまったところで,それに対してさらに夫も反発して口論へと進んでいったという感じですね。

たぶん,こんなやりとりは日本中の多くの家庭で溢れかえっているのではないかと思います。

まあ,人間ですから,疲れている時にはゆっくり休ませてほしいと思うのは無理もありません。

ただ,ゆっくり休むことを妻に認めてもらうための関わり方として,自分なりの「公平さ」を振りかざしてそれを相手に求めるというのは,人間関係を破壊するNG行為であることが上記の例によってお分かりいただけるのではないでしょうか。


そもそも,商取引における契約関係と異なり,人間関係において,客観的な意味での「公平さ」などありません

その「公平さ」とは,あくまで個々人の価値観というものさしで見た時に,『自分の感覚からすれば,このくらい相手に対して貢献しているのだから,それ相応にお返ししてもらって当然だ』と(自分勝手に)考えているに過ぎないのです。

そのような価値観に基づく感覚は人によって千差万別ですから,上記の夫婦のように,感覚にずれが生じて諍いになるのは当然といえば当然でしょう。

仮に口論や喧嘩にはならなかったとしても,それはどちらか一方が自分を押し殺して我慢しているだけで,win-winの状態ではありません。

(口論状態がlose-lose,どちらかが我慢している状態はlose-winといえます。)

自分の言うことを聞かせるために褒美(物)で釣ろうとする行為も,人間関係に取引の力を働かせようとする行為なので,同様に問題があります


口説きたい女性に対して一方的に贈り物等をしていた男性が,「これまでたくさん君に貢いできたんだから,付き合ってくれるよね?」と言って口説いたとして,上手くいくでしょうか?

女性の側が,『確かにあんなにいっぱい高価なものもらっちゃったからには,ある程度付き合ってあげなきゃダメなのかな・・・』というように返報性(※人は他者から恩を受けると何らかのお返しをしたくなる傾向があるという法則)に突き動かされて付き合ってくれる可能性は多少はあるかもしれませんね。

ですが,仮に付き合い始めたとしても,そのような動機付けで始まる恋愛関係が発展していく可能性は低いでしょう。


子供に言うことを聞かせるときに,「これをやったらおもちゃを買ってあげる」とか,「これをやったらお菓子をあげる」というようなアプローチをすることも同じです。

私も幼児の子を持つ親として,世のお父さんお母さんが,短期的・効率的に子供を動かすためにこのようなアプローチをとりたくなるのはとっても理解できるのですが,長期的に見れば,子供の成長にとっては良いアプローチとはいえないでしょう。

これを繰り返してしまうと,子供は何らかの褒美がもらえない限り行動しない人間になってしまう恐れがあるからです。


皆さん,人間関係は取引ではありません

自分の価値観で推し量った公平さを相手に求めることも,単純に経済的な利益だけで相手を動かそうとすることも,結局は人間関係を破壊する行為であって,何のメリットもありません。

人間関係は,取引の力ではなく「原則の力」で構築するのが鉄則です。

例えば,選択理論心理学において,人間関係を良好にする「身に着けたい習慣」として紹介されている

1,傾聴する
2,励ます
3,支援する
4,尊敬する
5,受け入れる
6,信頼する
7,意見の違いについて交渉する

といった行動を選択することが,「原則の力」で人間関係を構築することにつながります。

上記の各行為は,いずれも,それを継続することで相手との信頼関係が増強され,良好な人間関係を築く効果をもたらすという「原則」が存在するからです。


人間関係を良好にする「原則」を知り,そしてそれを実践する行動習慣をぜひ身に着けていきましょう!!