阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 01.27

信頼関係の薄い相手に納得してもらう方法①

ビジネスにおいてもプライベートにおいても,人は様々な場面で他者と話合いを行わなければならないことがあります。

そのような話合いの中でも,特に皆さんがご苦労されるのは,信頼関係の薄い相手との話合いではないでしょうか。

「信頼関係の薄い相手」というのは,例えば,以下のような人が考えられると思います。

・何らかの理由でこちらの提供した商品・サービスに不満を持っている顧客

・相手への不満や苛立ちといった負の感情が,肯定的感情を上回っている状態(≒冷戦状態)の親子,夫婦

・何らかの権利侵害を与えた側(加害者)と与えられた側(被害者)

今日は,そのような信頼関係の薄い相手に対して,こちらの意見を聞き入れて納得してもらうためにおすすめのステップをお伝えしたいと思います。

ステップ① まずは傾聴に徹する

お仕事でクレーム対応を日常的にされている方であれば日々実感されていることかと思いますが,例えば何らかの文句や不満をこちらに対してぶつけてくる相手に対して,それを遮ってこちらの考えを述べようとしたりすると,火に油を注ぐことになります。

そのため,クレーム対応マニュアル等でも鉄則とされていますが,まずはこちらの主張や意見を一切出さず,ひたすら相手の話を聴く(※「聞く」ではないところが重要です!)ことに徹するというのが第1ステップになります。

ちなみに,今これを読んでくださっている皆さんの中で,『そんな当たり前のこと知ってるよ。』と思った方がいらっしゃるかもしれません

そのような方は要注意です!

『知ってる』というのは,知識として脳内にあるというだけであって,実践していない場合に使われがちな言い回しだからです。

実践している人は,『知ってる』ではなく,『やってる』という反応になるはずですからね。

さて,話を戻して,第1ステップの「傾聴に徹する」ですが,顧客からのクレーム対応では皆さんけっこう気を付けていらっしゃると思います。

大抵はマニュアルがそうなってますよね。

それに,実際,クレームを言っている顧客の話の途中で何かこちらが言おうとしたら余計に話がこじれる,というのは身をもって体感することも多いですからね。

ですが,これが会社内の同僚間,上司・部下間,あるいは家庭内での夫婦間,親子間といった,本来的には,顧客よりも信頼関係が厚いはずの相手との話合いにおいては,活用できない方が非常に多いです。

どうですか?

心当たりのある方も多いのではないでしょうか。

なぜだと思いますか?

それは,人が,本来的には信頼関係が厚い人との間で何らかの理由で信頼関係に問題が生じた場合,元々の関係が厚ければ厚いほど,ほとんど無意識的に相手に甘えてしまう傾向が顕著にあるからです。

これは「原則」といっていい程明確な傾向だと思います。

ここからは,説明をわかりやすくするために,本来的な信頼関係の厚さを想定して,人間関係を以下の3つの類型に分けてお話ししたいと思います。

・第1カテゴリー(第1C) 家族,恋人等のごく近距離の人間関係

・第2カテゴリー(第2C) 職場の同僚,上司,部下,友人,所属コミュニティの仲間等,家族ほどではないにしろ日常的に接する機会の多い人間関係

・第3カテゴリー(第3C) 顧客,取引先,名刺交換+α程度の知人等,日常的な接点が少ない人間関係(※但し,顧客や取引先については,業態によっては第2カテゴリーに入る場合もあり)

第3Cよりも第2C,第2Cよりも第1Cというように,相手に甘える傾向が強まってきます。

「相手に甘える」というのは,こちらが努力せずとも相手がこちらのために考えや行動を変えてくれることを期待してしまうということです。

「同僚なんだから,こちらの気持ちを理解してくれるだろう。」

「日頃から指導している部下なんだから,こちら(上司)の考えを理解して当然だろう。」

「夫(妻)なんだから,自分の気持ちを理解して尊重するのが当然だ。」

こんなパラダイム(※主観,物の見方・考え方)が,「相手に甘える」という行動の根底にあるものです。

元々の関係性や立場,あるいはそれまでの貢献などから,相手は自分の意見を受け入れたり,自分の考えを理解して当然ではないかと考えてしまうわけですね。

だから,相手と信頼関係が薄まっている状況であるにもかかわらず,顧客からのクレーム対応でやっているような鉄則を活用できなくなってしまうのです。

しかし,本当は,第1C,第2Cの人間関係にある相手にこそ,より一層,傾聴をはじめとする交渉ステップが重要になるのです。

それはどうしてか,ということについては,次回お話ししたいと思います。

お楽しみに!!