阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属 阿部竜司法律事務所 札幌弁護士会所属

2017 11.21

問題解決の原則① できることをやり尽くす

誰しも,日々の仕事や私生活において様々な問題に直面します。

これは,人が社会共同体として共に助け合いながら暮らしている以上は避けようがないことです。

さて,今日はそんな日々直面する様々な問題を解決するために重要な原則の1つをご紹介したいと思います。


今日ご紹介する原則は,「できることをやり尽くす」です。

『そんなの当たり前ではないか。「原則」というほど大それたものだろうか?』

そんな風に思われる方も少なくないかもしれません。

確かに,一見すると当たり前のことと感じても無理はないと思います。

誰だって,問題解決のために何かしらの努力をしようと試みるのはごく普通のことですからね。

ですが,そのように思われた方にはぜひ,今までご自身が直面してきた問題(中でも特に解決に至らなかった問題)について,できることを「やり尽くし」ていたかどうかを自問していただきたいと思います。

思いつく限りのあらゆる方法を試したり,自分が思いつかないアイデアを人に聞いたり,それまで自分がしてきたこととは異なる選択をしたりしたかどうか,と問われるといかがでしょうか?

 


「7つの習慣」において,著者のスティーブン・R・コヴィー博士はこんな事例を紹介しています。

(以下,「完訳 25周年記念版 7つの習慣」の372頁から,上司が非生産的なリーダーシップスタイルを曲げようとしないためにひどくストレスを感じている知人と,コヴィー博士との対話を引用します。)


知人:「なぜ変わろうとしないのだろう?」「話し合いを持ち,彼はわかったと言った。それなのに何もしようとしない」

コヴィー:「君が効果的なプレゼンテーションをすればいいじゃないか」

知人:「したさ」

コヴィー:「効果的という言葉の意味をどうとらえている?セールス・パーソンの成績が振るわないのは,誰のせいだろう?お客さんではないはずだ。効果的というのは,PとPC〔※1〕両方のことなんだ。君は自分が望んでいた変化を起こしたかい?その過程で信頼関係を築いただろうか?君のプレゼンテーションの結果はどうだった?」

知人:「僕が言っているのは,上司のことだ。彼は何もしない。聞く耳を持たないんだよ」

コヴィー:「それなら,君の考えを効果的なプレゼンテーションで伝えることだ。まず彼の身になって考えてみる。自分の言いたいことを簡潔にまとめて,目で見えるかたちでプレゼンする。相手が望んでいることを相手よりもうまく説明しなくちゃいけない。ある程度の準備が要るよ。やれるかい?」

知人:「なぜそこまでしなくちゃいけないんだ?」

コヴィー:「つまり,君は上司にはリーダーシップ・スタイルを変えてほしいと思っていながら,自分のプレゼンテーションのスタイルは変えようとしないのかい?」

知人:「そういうことかな……」

コヴィー:「なら,笑顔で今の状況を我慢するしかないね」

知人:「我慢なんかできるものか。そんなことをしたら自分に嘘をつくようなものだ」

コヴィー:「それなら,効果的なプレゼンテーションをするしかないよ。それは君の影響の輪の中〔※2〕にあることだよ」


※1「PとPC」=Production(成果)とProduction Capability(成果を生み出す能力・資産)の略

※2「影響の輪」=人が関心を持っている様々な事柄のうち,自分自身の思考や行動など,自ら直接的にコントロールできる領域のこと


このような場面,立場は違えど似たようなご経験をしたことがある方は少なくないと思います。

ちなみに,上記の知人は結局何もしなかったそうです。

その結果はどうなるでしょうか?

そう,何も変わらないということですね。


さて,この知人は,上司のリーダーシップ・スタイルを変えてもらいたいという問題解決のために,「できることをやり尽くした」と言えると思いますか?

いろいろな意見はあると思いますが,私は,「やり尽くした」とは言えないと思います。

コヴィー博士が対話の中で示唆しているように,彼はもっと効果的なプレゼンテーションのやりようがいくらでもあったと思うからです。


自分が直面している問題の解決について,原因を他人や外部環境に置いて,自分の行動を変えないという選択をした場合,よほど運がよくない限り,状況は好転しません。

(ちなみに,運良く一時的に状況が好転したとしても,自ら問題を解決する能力が磨かれていない以上,遅かれ早かれ再び似たような問題に直面することになるので,結局根本的な解決にはなりません。)

私自身が経験した法律相談でも,同じような考えが浮かんだことがあります。

相談の概要としては,

『集合住宅において,上階の住人の騒音がひどく,管理人を通じて苦情を申し入れたほか,過去に複数回警察を呼んだこともあるが,一向に解決しない。どうしたらよいか?』

というものでした。

相談者の方(仮に「Aさん」とします。)は,ご相談にいらっしゃるまで,とにかく相手に対して苦情や文句を言ったり,警察に通報するといった,要は“相手に圧力をかけて騒音の発生を止める”という方法を選択し続けていたわけです。

しかし,一向に解決には至っていない以上,この方法は“効果的”とはいえなかったと考えられます。

実際,上階の人の立場になってみれば,よほど明確な心当たりでもない限り,『自分たちは通常の生活音しか発生させておらず,下階の人が過剰に反応しているだけである。』と感じても無理はないところでしょう。

そんな風に思っているところで,とにかく文句を言われたり,警察を呼ばれるなどの圧力をかけられたらどう感じるでしょうか?

少なくとも,『下階の人に気を遣おう』とか,『お互い様だから意識して気を付けよう』などという気にはならない可能性が高いですよね。

そうすると,Aさんが問題を解決するためには,もっと効果的な方法を考える必要があるわけです。


そこで,私が提案したのは,一言でいうと,“上階の方と仲良くなること”でした。

親しい関係になった方が,上階の方が『下階のAさんに悪いから,生活音を気を付けよう』という気になることは間違いないという確信があったからです。

(※ちなみに,この確信は,『人は自分が信頼したり,親しみを感じている人に対しての方が,相手に配慮した行動をとりやすい』という原則に根ざしたものです。)

もちろん,今まで散々文句を言ってきた相手といきなり仲良くなることは簡単ではありません。

根気と時間が必要です。

そのような根気と時間をかける気になるかどうかは,その人がどれだけ今自分が直面している問題を解決したいと考えているかによります。


実際のところ,Aさんは,私の提案については消極的なお考えのようでした。

『悪いのは騒音を発生させている上階の人間なのに,どうしてこっちが気を遣って歩み寄らなければならないのだ。』

というお気持ちが強かったようです。

コヴィー博士が紹介している上記の例と同じですね。


なお,別な選択肢を試みることが正しくて,試みないことが誤りということは一切ありません。

なぜなら,どちらの選択肢についても,その選択の結果を享受するのはご本人だからです。

ご本人が,『相手に配慮するくらいなら,現状が続く方がましだ。』と思うのであれば,現状維持という選択肢もありうるわけです。

全ての選択の責任は,選択した本人のものです。


とはいえ,やはり,問題は解決できるに越したことはありませんよね。

ぜひ,今後,解決困難な問題に直面したときには,上記の各事例をヒントに,「効果性」を考えながら「できることをやり尽くす」という観点で解決方法を模索してみてください。

ちなみに,「人の力を借りる」という選択肢は案外頭から外れがちなことが多いので,視点の1つとして常に持っておくことをお勧めします。


今後も,問題解決に効果的な原則を随時ご紹介していきますので,お楽しみに(^^)